ヨサコイ楽曲の三味線の音作り
弊社で制作するヨサコイ楽曲に入っている楽器音は殆どが生楽器ではなく、
打ち込み(演奏プログラム)によってシンセサイザーから出る音で作られています。
しかし「これシンセの音なんですか!?生かと思った!」とお客様から驚かれることがあります。
まずは実際の音を聞いてみてください。
三味線の音でソーラン節を打ち込んでみました。
どうでしょう?三味線の音に聞こえたでしょうか?シンセサイザー(以下音源)でもリアルになると思いませんか?
今回はヨサコイ楽曲における代表的な和楽器【三味線】を例に挙げて
こだわりの音作りのお話をしようと思います。
目次
三味線の打ち込み
三味線を打ち込む場合は主に使用している音源は
Sonica INSTRUMENTS 【TSUGARU SHAMISEN】になります。
三味線の音源は他にも所有していますが、
ヨサコイと言えば津軽三味線。津軽三味線の音源と言えばこの音源がファーストチョイスです。
何もしない打ち込み
打ち込みというのは単純に音符を置いていく作業なのですが、
楽譜通りにただそのまま音符を並べるとこんな感じになります。
太鼓が邪魔なので三味線だけの音を聞いてみましょう。
優秀な音源なのでこれでも十分にリアルに聞こえるかもしれませんが、
どうしても機械っぽさが残ってしまいます。
一番最初に聞いて頂いた音に比べると音の張り・ツヤ等も足りない気がします。
表情を付ける打ち込み
そこで音に表情を付ける為に
それぞれの音符ごとに
①強弱をつける。
②演奏者の癖や節回しを再現する音符を追加する。
③音を切るタイミングを実際の演奏に近付る。
④弦をバチで上から叩くのか下から叩くのかで演奏する音を変更する。
⑤指をずらした時や音を止めた際の生じるノイズを再現する。
これらの作業を行っていきます。
音符がすごく増えていますね。ついでに掛け声も入れてみました。聞いてみましょう。
三味線だけでも聞いてみましょう。
だいぶ生演奏に近づいたのではではないでしょうか??
しかしまだ何か足りません。
音そのものに迫力が足りないと感じませんか?
良い打ち込みをしてだけでは良い音にならない
上記の様に細かく生演奏を再現した打ち込みを行っても、
そのまま鳴らしただけでは音楽になりません。
このままでは三味線の生音を録音した段階と変わりません。
曲に合わせてより良く聞こえるようにする為にいろいろな処理をしなくてはいけません。
三味線の音の特性
三味線の音を良くするには、
まず三味線の音の特性を理解しなくてはいけません。
バチを弦に打ち付けて鳴らす三味線は非常に音の立ち上がりが早いという特性があります。
弦をハンマーで叩いて音をだすピアノと原理が近い?ので比べてみましょう。
ピアノと三味線の音の違い
上の2つが三味線。下の2つがピアノの音の波形です。
縦幅が音量、横軸が時間的変化です。
ピアノと三味線を比べると、音の立ち上がりは一緒ですが、
三味線の方が早く音が減衰し、ピアノの方が長く響いていますね。
これが三味線とピアノの違いです。
ピアノの音に近付ける事が良い音という事ではないんですが、
三味線の減衰の速さは他の音とも混ざりにくくなりますし、
なにより音程感よりもパーカッションのような印象を与えてしまいます。
三味線の音を聞きやすくする為に
音に様々な効果を与えるエフェクターというのを使って三味線の音を仕上げていきます。
具体的には三味線の立ち上がりのバチの音を抑えて減衰をゆっくりさせます。
曲によって仕上げ方は違うのですが今回の手順を紹介します。
①サチュレーターであるRX950でバチの音を抑え込み、抑え込んだ事で出てくる不要な倍音をカットします。
②チューブコンプで音量を整えつつ、減衰しないように全体を持ち上げる。
③console1という高価な機器をシュミレートしたエフェクターを通す。
④最後にリバーブとトータルコンプで仕上げです。
ここまで来てようやくこの音が鳴るわけです。
大変手間が掛かっているように見えるでしょうが、
ヨサコイ楽曲制作ではこのような作業を
尺八・ドラム・和太鼓・ギター等すべての楽器パートで行っています。
打ち込みのメリット
なぜそこまでするかというと、
打ち込みによるメリットが沢山ある為です。
制作費用が安くなる
生楽器を録音する場合、演奏家さんに支払う代金やレコーディングする為のスタジオ代が経費として掛かります。
打ち込みであればこれらの費用は掛からなくなり、安価にヨサコイ楽曲制作を行う事が出来ます。
リテイクへの対応が早くなる
生楽器で録音後にリテイクが入った場合、録り直しとなります。
その為にレコーディングスタジオの予定、演奏家さんの予定を組みなおすことになり、
リテイク完了までにかなり時間がかかってしまいます。
しかし、打ち込みであれば私1人の作業で終わらせる事が出来るので、
非常に短期間でリテイクを完成させることが可能です。
デメリットもある
良い点ばかり書いてきましたがもちろん打ち込みによるデメリットもあります。
それは【生楽器にはどこまで行っても勝てない事】です。
音源がいくらリアルになろうとも
打ち込みがどんなに上手かろうととも
生楽器の再現であり生楽器そのものを超える事はありません。
しかし、そのデメリットを少しでも減らすために、
ここに書いてきたような細かい作業を行っているという次第です。
安価で高品質なヨサコイ楽曲を作る為に。